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東京高等裁判所 平成2年(う)118号 判決 1990年6月20日

被告人 原正明(昭34.4.2生)

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役6月に処する。

この裁判の確定した日から2年間右刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

第一論旨は、被告人には本件各行為につき共謀の事実は全くなく、仮に処罰されるとしても、せいぜい従犯にすぎないから、原判決には事実誤認及び法令適用の誤りがある、というのである。

しかしながら、被告人並びにA子の捜査、公判段階の各供述によれば、被告人は、使用人である共犯者BをA子の専属マネージャーとし、同人をして原判示の各社に同女を売り込ませ、各録画監督の指揮のもとに出演させていたこと、売り込みの際の面接状況についてはBから直接報告を受けあるいはスケジュール板の記入を通して逐一知つていたこと、A子の出演料は、Bに対し1本80万円と指示していたこと、被告人は、紹介の営業者として金の出し入れを管理するためモデルの動きを十分に把握しておく必要があり、A子についても例外ではなかつたことなどが明らかであるほか、関係証拠によつて認められるビデオ出演のいきさつ、状況等を総合すると、被告人、B、録画監督の間に順次共謀が成立したことは優に肯認することができ、幇助にとどまるものでないことは明らかである。原判決に所論のような誤認、違法は存しない。

第二論旨は、被告人はA子の年齢確認のため、身分証明書の提示を受けたり、えと、星座等を質問したりしているのであるから、同女が18歳未満であることを知らなかつたことに過失はないのに、これありとした原判断は法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。

前掲証拠によると、被告人が所論のような確認手段を講じていることは認められるが、本件の場合、身分証明書は生年月日欄、住所欄にその記入のない不備なものであつたことのほか、A子自身18歳という自称年齢のわりには幼な顔で、被告人も危惧、疑念を抱いており、同女に車中で、本当に18なの、と問いかけるなど、相当気にかけていたことが認められること、えとや星座の確認程度では有効な手段とはなりえないことなどを考えると、本件のような事情のもとでは、年齢確認につき過失なしとはいえない。原判断に、所論のような違法のかどは存しない。

第三論旨は、本件は包括一罪の関係にあるから、これを併合罪として処断した原判決には法令適用の誤りがあるというのであるところ、関係証拠によつて認められる本件支配の実態にかんがみると、これを包括して一罪と評価すべきであるから、原判決は法令の適用を誤つたものというべく、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。この論旨は理由がある。

よつて、刑訴法397条1項、380条により原判決を破棄し、同法400条但書により更に次のとおり判決する。

原判決の認定した事実に刑法60条、児童福祉法34条1項9号、60条2項をそれぞれ適用し、懲役刑を選択したうえその刑期の範囲内で処断すべきところ、本件犯行の罪質、態様、児童支配の実態、年齢確認の点についての過失の程度、犯行後児童に対し慰謝の途を講じていること、反省の情、被告人に前科がないことなどの情状を考慮し、被告人を懲役6月に処し、執行猶予につき刑法25条1項、訴訟費用につき刑訴法181条1項本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田穰一 裁判官 高木俊夫 小田部米彦)

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